脱水に伴う血液量の減少により、血流の酸素運搬が減りパフォーマンスの低下に繋がります。
さらに熱疲労/熱中症を引き起こす原因にもなります。
一方、低ナトリウム血症は持久系のスポーツで起こりやすく、時に致命的になります。
低ナトリウム血症
体の水分調整がうまくいかず、血中のナトリウム濃度が低くなってしまった(塩分が薄まってしまった)状態。ホルモンの異常や過剰な水分摂取などで起こる。
このページに掲載した水分補給は長時間の持久運動を想定したもので、日常生活・一般的なスポーツなどで習慣的に言われてきたことと異なる部分があるかもしれません。 この記事はこの分野の種々の研究結果をもとに構成しています。参考文献は各所に掲載。
基本的な考え方
ウルトラマラソンなどの超持久系競技において、脱水はパフォーマンスを低下させることはありますが、水分摂取ができる競技環境であれば重大なリスクになることは稀です。
従来は脱水を体重減少2%に抑えるという指針が示されていましたが、実際はもっと多い8%以上の体重減少でも健康影響がなかったという報告もあります。[12,13]
現在、持久系運動における水分補給に関して、気をつけなければならないとされているのは、よりリスクの高い低ナトリウム血症を起こさない方法についてです。
低ナトリウム血症を起こさないための水分補給
- レース中の飲水は「喉が渇いたら飲む」というスタンス
- 計画的な強制摂取(喉が乾いてなくても30分に1回○○○ml飲む)は、脱水よりも深刻な低ナトリウム血症の発生リスクとなる
- 水分摂取のペースは1時間あたり700ml以下にする
- 意図的に多く飲む/レース中は飲まないといった水分摂取の仕方は推奨されない
- レース本番を想定した事前トレーニングで「渇いたら飲む」を試したり、「体重変化」を確認して水分摂取の目安を作っておくことを推奨。本番にいつもと違う新しいことをしない。[14]
ホルモンの影響
持久系競技では、体は長時間の運動ストレスに対抗しようとして水分を溜め込むためのホルモンを長時間に渡り放出し続けます。そのため低ナトリウム血症が起こりやすくなります。[15]
測れるなら体重変化を指標に
体重の2〜3%の脱水はパフォーマンスの低下や症状、疾病の発生リスクがほとんどなく、4%以上減だとメディカルチェックを考慮する対象に入ってきます。[14]
逆に体重が増えるような水分摂取方法は低ナトリウム血症のリスクになります。[14]
大会として各ステージの前後で計測できるように体重計を用意する予定です。
塩分摂取量の影響は小さく、水分摂取量の影響の方が大きい
白山ジオトレイルのように暑く、複数日にわたって行われるステージレースでは、塩分摂取(スポーツドリンクや塩味の行動食、キャンプ地での塩気のある食事)に気を使うべきですが、レース中の塩分摂取の量は(多くても少なくても)影響は小さく、水分摂取の影響の方が大きいです。[14]
塩分を摂っていても(スポーツドリンクでも)、過剰に水分摂取することは低ナトリウム血症のリスクになります。
出すのも大事だが、
レース中にトイレに行ける機会があれば、尿の量・色をチェックすることで、水分が適切に取れているかの目安にできます。
ただし、低ナトリウム血症で尿量が減ることがあり、その場合は、水をさらに飲むと状態が悪化する可能性がああります。
低ナトリウム血症は脱水状態・熱中症の症状と類似しているので判断しにくいですが、水分補給をしているにも関わらず尿の量が少ない場合は低ナトリウム血症を疑い水分補給を控え、医療班に相談してください。
症状だけから判断するのは難しい
吐き気、頭痛、脱力感・衰弱などの症状は、熱中症、脱水、低ナトリウム血症、胃腸障害、低血糖などで共通してみられます。そのため症状だけから判断するのは容易ではありません。
それまでの行動を振り返り判断の一助とすることが大切です。
- 水を取りすぎていなかったか?
ステージ前後に体重測定を予定しているので、目安としてご利用ください - 糖質補給は不足していないか?
- 事前に暑熱順化はできていたか?
いずれの原因であっても、意識がおかしくなる場合は赤信号です。 すぐにスタッフに伝達してください。
意識の変化の例
- 色々話しかけても、うなる・頷くだけなど反応が薄い
一見、疲れているだけに見えても、言葉での返事がなかったり、「ザックをおろして日陰で水飲みましょうか」と声をかけても、ぼーっと立っているだけなど、行動ができなくなっていることがあります。 - 精神状態の異変(混乱状態、好戦的など)
- 意識の消失(意識はなくても、音には反応する?体を叩くと反応する?完全に無反応?)